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Jennifer Curtisのリアルじゃぱん体験記

桜の花が咲きほこる頃、突然に一本の連絡が舞い込んだ。あのインディアンジュエリー作家ジェニファーカーティスが日本に遊びにくるという。突然の一報になつかしい南西部の思い出が一気に蘇った。インディアンカルチャーの面白さを教えてくれたジェニファーに、今度は私がリアルな日本を見せてあげよう!かくしてジェニファーと私のローカルツアーが始まった。普段は見ることのできないありのままの作家の素顔、その一日を追いかけてみよう。

10時御徒町、もちろんナバホタイムで。

 「今度日本に遊びにいくから!」そんな一本の連絡から始まった。『ジェニファーカーティス』インディアンジュエリー好きなら一度は名前を聞いたことがあるかもしれない。分厚いシルバーに力強く打ち出したスタンプ。まるで鏡のように艶やかに磨き抜かれた銀面。狂いのない仕事に孤高のアーティスト像を持つ人も少なくない。ところが当の本人、そんなイメージ像とは正反対。つねにジョークを飛ばす、THEナバホのおばちゃんなのである。ジェニファーが亡き父トーマスから受け継いだのは、ジュエリー製作の技術だけではなく、この笑いのセンスも立派に受け継いでいる。連絡がきた時、あのジェニファー節が聞ける!と思わず胸が弾んだ。

ジェニファーカーティスのインディアンジュエリー

便りは突然に…

 今回マライカではJennifer Curtis & Thomas Curtis作品一挙公開!15時から17時ごろアーティストが現れるかも、と告知した。「かも…?くるの?こないの?」不思議に思った方もいるかもしれない。実のところ、ジェニファーを時間通りにお連れする自信がなかったのだ。 というのも、彼らには彼らの時間軸・ナバホタイムが存在する。もともとインディアンの人たちには時を数字で刻む感覚はない。陽が上がれば朝だし、陽が沈めば夜なのである。良くも悪くも風がふくままに。現代のハイテク社会の中でスマホ片手に生活していても、その感覚はいまだに血に残っている。約束の時間に遅れた時は、謝るかわりに決まってこう言うのである「ナバホタイムだよ」と。これも彼らの文化!いいじゃないか。

ホテルで待ち合わせ

 そんな訳で、どんな気まぐれが起きるのかひやひやしながら迎えにゆくと…そこはしっかりジャパンタイムで待っていてくれるジェニファー。変わらぬ笑顔で、まずは「Yaateeh! ヤッテー!」とナバホ式のあいさつ。これはナバホ族の言葉でこんにちはを意味する。インディアンの人たちは、大事な時はジュエリーで着飾る事を忘れないのだとか。この日のジェニファーもネイティブ柄のPENDLETONのバッグに、ゴージャスなジュエリーで着飾っていた。もちろんジュエリーは彼女のお手製!宇宙をモチーフにした幅8cmもある大きなバングルと、イーグル フェザーのペンダントを着けていた。やっぱりイーグルフェザーは彼らにとってはお守りなのである。身に着けていたジュエリーの話などを聞きながら、ほっと一息ついたのもつかの間、「ちょっと家族に送金したいんだけど。」といきなりの無茶ぶり。(はい?!いまからですか?えーっと、銀行でできるのだっけ?)軽くパニックになりながら、ホテルスタッフにきくと、ホテルスタッフもパニックに。どうやら旅行者は銀行からは送金できないらしい。スタッフ2人がかりで電話やらネットやらを駆使して、待つこと30分。金券ショップでできるらしい。さぁ、五反田へいこう。

金券ショップで送金
 

クレイジーじゃぱんへようこそ。

 明治神宮で荘厳な日本の一面を味わってもらおう!なんていう計画は突如、送金をしてみよう!に変わった。ググった有名お好み焼き店は、駅前の某バーガー屋へと変わった。きちんと観光案内できなかったことに落ち込む私とは裏腹に、ジェニファーはなんだか楽しそう。バーガー屋で慌ただしくバーガーを立ち食いするサラリーマン、人・人・人で溢れる渋谷センター街、どうやら“THEローカルじゃぱん”を楽しんでいるご様子。山手線の通勤ラッシュや、駅構内の多すぎる階段などは、車社会アメリカでは味わえない新鮮な体験、ちょっとしたアドベンチャー気分だったとのこと。ジェニファーは笑いながらいう、「寺は13年前に来日した時にイヤって程観に行ったから今回はいいわ。桜桜って皆いうけど、木の1つに過ぎないじゃない。」このおおらかさ!そう、インディアンの人たちは計画通りにいかなくても、準備をしなくても、必要なものは現地でちゃんと調達する術(力)を身に着けている。そして、なにより大事なものはどこにいても変らず、“家族”なのである。これこそがインディアンの強さなのだ。現にジェニファー、来日2回目で電車に一人で乗れない。なのに、ひとりで日本にきてしまった。

渋谷の交差点で記念撮影

ジェニファー、指圧マッサージに悶絶

ところでジェニファー今回なぜ日本にきたかというと、 4/17が彼女の誕生日なのだ。革職人のパートナーと一緒に作ったハンドバックが売れ、彼に「誕生日に何がしたい?」と聞かれたという。そこで兼ねてより来たかった日本に遊びにきたのだ。ならば日本でしたいことを叶えよう。ジェニファーからのリクエストは2つあった。「マッサージ”と“おいしい日本食」ジュエラーの肩は驚くほど固い。それもそのはず、ジュエリー制作はハンマーを分厚いシルバーに何度となく打ちつける相当な力仕事なのである。それゆえ現地にはジュエリーを作る女性は多いが、ジュエリー作家として世に出る人は少ない。ジェニファーの肩もまた長年のジュエリー制作で素人では揉めないほどに固かった。指圧マッサージ店では時折ジェニファーの叫び声や悶絶する声が聞こえながらも、無事マッサージ体験は終了した。リラックスして今にも寝そうなジェニファーを連れ、ファンの集まるマライカ青山店へと向かった。

 

わたしはロックスター

 青山通りというビルが並ぶ都会的な街並みにマライカ青山店はある。マライカの中でも選りすぐりのインディアンジュエリーのラインナップを誇り、今では入手困難なジェニファーの亡き父・トーマスの作品もここにはある。着いてすぐ、店頭に貼ってあった自分のジュエリーが写ったポスターを見て「わたしはロックスターのディーバの様だわ!」とご満悦のジェニファー。この旅で日本のファンに会い、写真やサインを求められ、中には感激して泣いてしまう人もいたんだとか。普段アメリカでは一般人なのに、日本ではスターの様な特別な存在であることに不思議な感覚を覚えるという。店内では急な告知にも関わらず駆けつけてくれた方々が集まっていた。亡き父を知るお客様と昔話に花を咲かせ、たまに涙を見せるシーンもあった。どうやら13年前の来日の時は父と一緒だった為、今回の旅でも時折思い出していた。トーマスが2013年闘病生活の末に他界した時、一時はなにも手につかない状態だったという。彼はジェニファーにとって父であり、ジュエリー制作を学んだ師だった。「今ではだいぶ気持ちの整理がつき、ジュエリーを作っている時間は父トーマスと対話をしているようにトーマスの存在を感じる」と話してくれた。

ロックスターのポスターを見て
 

ジェニファー×あの作家

 この日ジェニファーがハリソンジムのジュエリーを身に着けていたこともあり、他の作家とのエピソードも話してくれた。「このハリソンジムのリングはバングルと交換したのよ。私のジュエリーの方が安かったはずだから、私にとってはいいトレードだったわ。」「ペリーショーティは、彼がジュエリーを作り始める前から知っているわ。だからよく冗談を言い合うの。ペリーは私に話しかけるときは、女王陛下に話しかける時のように“話しかけてもよろしいですか?”っていうのよ。」「尊敬するアーティストはもちろん父トーマスカーティスよ。だけど、あえて父以外で挙げるなら、アーロン・アンダーソンかしら。彼の作品はとにかく素晴らしいわ。」たまにジェニファーから質問するシーンもあった。年代ものの切手をもらったジェニファー、古い日本画にも感動しつつ、気になったのは“日本郵便”の文字。この“本”という漢字がジェニファーにはインディアンに古くから伝わるナジャのモチーフにみえたのだ。お客様から説明された“日本”の名前の由来に感銘をうけ、次回ジュエリーのインスピレーションになったと喜んでいた。

 今回はデモンストレーションという形式ではなかった為、ざっくばらんな交流会という形になったが、ジェニファーにとってもよい時間だったようだ。そして、マライカ×インディアンジュエリー作家イベント恒例“ジュエリー制作用の丸太にサインください”を今回もお願いした。ジェニファーはナバホネームの“Dezbah” とイーグルフェザー、そしてサインを入れてくれた。巨匠Ernie Lister、亡き名工Gary Reevesなどと並んで、またビックネームが丸太に増えた。そんなこんなであっという間の2時間が過ぎ、青山店を後にした。

 ※Harrison Jim 溶かしたシルバーをハンマーで叩いて、シルバ板からジュエリー作りをする、伝統的な手法でジュエリーを作るアーティスト ※Perry Shorty アメリカ国内外でトップアーティストとして君臨する作家。作品の美しさはもとより、その作品の少なさからカリスマ的人気を誇る ※Aaron Anderson KING of TUFAの称号を欲しいままにするトゥファキャストのアーティスト。マライカでも、過去デモンストレーションのイベントあり。

 

ジェニファー、回る寿司を体験

 ところで、13年前に来日して以来、大の寿司好きのジェニファー、普段から日本食屋で寿司を食べるという。たいてい4日もすれば母国のご飯が食べたくなってくる頃だが、ジェニファーは違う!夜はアメリカンフードにする?と聞くと、「何のためにはるばる日本にきたかって、日本食を楽しみにきたのよ!」なかなかのフードファイターである。ジェニファーの住むエリアには回転寿司というスタイルのお店がなく、リクエストは回る寿司だった。とことんローカルに行こうじゃないか。いざ寿司屋に入ると、寿司職人の威勢のいい掛け声やにぎやかな店内にさっきまでの時差ボケもどこかへ吹っ飛んだ様子だった。ベルトコンベアの上を回る寿司の奇妙さを子供のように楽しんでいた。さすが普段から寿司を嗜むだけあって、箸使いはなかなかのもの。今回初挑戦のえんがわと茶碗蒸しを楽しみながら「日本で食べる寿司は鮮度が違うわ。これが本物の寿司なのね。」と通な一言も。

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 今回、観光らしい観光は出来なかったものの、リアルな日本を体験し、日本のファンとの交流を楽しんだ彼女。「また秋にきっと戻ってくるわ!」という言葉を残してお別れした。次回はどんなサプライズをしようか、はたまたされるのか、実に楽しみである。

トムホーン町田店/オンラインショップ 担当 IZU

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