Harrison Jim 工房探訪

ネイティブアメリカンならではの神秘的で美しいシルバー細工が人気の、インディアンジュエリー。ナバホ族ハリソン・ジムは、インディアンジュエリーの名工の一人。彼の作品には、ナバホの伝統を生かしながらもどこかきっちりとした西洋のジュエリーのような風合いを醸し出す不思議な魅力があります。日本の雑誌で大きく取り上げられることも。アメリカ駐在スタッフが、そんな、ハリソン・ジムの工房に行ってきました。

アメリカニューメキシコ州、ギャラップの町の東、町からすぐのリザベーションに住むハリソン。
彼の家は、ナバホ族の伝統的な6角形の家、ホーガンです。
彼の住むホーガンには電気・水道は一切なし。電気を使うときは、発電機を利用しているそう。

ホーガンの入り口は、必ず東(朝日の方向)を向いています。これも、インディアンの伝統。
天気が良くなってきたから昨日は畑を耕して作物の準備をしたというハリソン。ナバホ族でも珍しい、かなり昔ながらの暮らしを今もしています。

一番に目に飛び込んだのはこの薪ストーブ。ストーブの上ではスープを作っていました。
朝8時。ちょうど朝日が降り注ぐ中、入り口を開けて太陽を浴びながら作業を始めてくれました。

トゥファキャストの制作過程
今回、彼が見せてくれるのは、インディアンジュエリーの、『トゥファキャスト』という技法。はじめに、トゥファストーンという、石灰質の柔らかい石に、デザインを描いていきます。
中心とサイドに線を引き、後は自分の感覚でデザインを入れどんどんと削っていきます。
アーティストによって、細かく計ってラインを引きながら作る人もいれば、感覚で作る人もいてその違いが面白いです。

デザインが出来上がったら、シルバーを流すための空気穴を作っていきます。ここで、トーチを取り出しておもむろにトゥファストーンを真っ黒に!これは初めて見る技でびっくり。だからハリソンのできあがりトゥファストーンはいつも真っ黒なんですね。トーチの空気量を少なくして、煙だけをあてるのだそうです。
トゥファストーンを黒くすることで、空気穴の放射状の線を刻みやすくしています。これは、トゥファキャストでもハリソン独特の技術。
いよいよシルバーを流し込みます。ハリソンのデザインはとても細い彫刻刀で、深く細かいデザインを刻んでいきます。まんべんなく温めると、こんな感じで細かいデザインの部分が真っ赤になっています。
うまくシルバーが流れ込むように、絶妙な深さ加減が必要なんだそうです。

出来上がりのデザインを、トゥファに埋め込むようにデザインしていく・・・。トゥファだけ見ただけでは、どんな凹凸になるのか、素人目には想像がつかないです。
2枚の型の間に熱したシルバーを流し込んで固めます。
うまく流れ込んだようで、一発成功!2枚の型を開いてみると、リングの原型となるシルバーが。
余分な部分をやすりで削り、滑らかに。表面にデザインのスタンプを刻んで、次はリングの形に形成していきます。この成形の過程が、かなり長い!
様々なテクニックを使って、表面の質感も変えています。
上出来・・・!の様子。
さて、いよいよ最終段階。磨きに入ります。ちょっと準備が・・・・と息子君がホーガンの裏へ。ブオーンと発電機をスタートさせました。ハリソンはでっかいジャケットを羽織って外へ。磨きのバフマシーンは外にあります。電気がなければ使えないので、いつも発電機を使うんだそうです。
バフをかけて、完成。

ハリソンのトゥファの作品は、どこかメタリックな、鉄や他の鉱物を連想させるような力づよさがあります。かといって、ナジャなど丸みを帯びたデザインになるととても優しくて、でもすごくきっちりしている、そんな印象です。

幅広い、こだわりのスタイル
ハリソンがバングルなどを作るときにつかう、インゴットシルバーを伸ばす時のローラー。インゴットシルバーとは、扱いやすい市販のシルバープレートではなく、銀塊を溶かして自ら作る銀板のこと。

古いタイヤのパーツなどと接続させて、自分の使いやすいようにカスタムしたんだそうです。

厚みを変えて何回もローリングすることで、目が詰まった、深いスタンプが入るシルバーができるので、インゴットにこだわるんだとか。
ちょうどネックレスの製作途中でした。
手間のかかるハンドメイドビーズ、ハリソンはこういった地道な作業も得意です。しっかりとした重さのあるハンドメイドのビーズをつくる、数少ないアーティストです。
ひとつひとつトゥファキャストでつくられた、豪華なクロスと、その型。ハンドメイドのビーズと合わせてネックレスにします。
簡単そうに見えますが、こうやって細かいところまで均等にシルバーを流していくのってすごく難しいんです。このやり方にはびっくりでした。
この朝も、いろいろな人が訪ねてきてたわいもない話をし、ザ・ナバホというライフスタイルを送るハリソン。そんな中から彼のデザインも出てくるんだなと感じました。
インディアンジュエリーは、一部店舗を除く全国のマライカ、または、公式オンラインショップでも販売しております。
Harrison Jim(ハリソン・ジム)

1970年生まれ。ナバホの母とアイリッシュの父を持つ彼は、ナバホリザベーションで育ちました。
ナバホの習慣の元で育った彼は、シルバースミスであった祖父の影響でジュエリー製作を始めました。
高校ではJesse MonongyaやTommy Jacksonらのクラスをとり、本格的にジュエリー製作を学んでいます。
彼の作品は精巧なインレイワークから大胆なナバホのオールドスタイルまで幅広く、シルバースミスとしての確固たる誇りを感じます。