Dan Jackson アーティストインタビュー

ダンジャクソン Dan Jackson アーティストインタビュー
 ナバホ族の伝統的な手織りのラグの柄をデザインした、美しいインディアンジュエリーが人気の、ダンジャクソン。御年七十六歳のベテランアーティストです。
今年はもうリタイアだと言いながらも、コレクターの熱に押され、今もなお現役で制作活動を続けられています。
マライカのアメリカ駐在所には、オーダーがなくてもただ顔を出して世間話をしに来てくれ、スタッフにとってもアーティストを超えた存在です。
 そんなダンジャクソン氏との宝物のような会話を、インタビュー形式でまとめてみました。

ナバホ族アーティスト ダンジャクソン

伝統的な手織物 ナバホラグ

ルーツとナバホラグ

――ダンジャクソン氏(以下ダン)はどうやってインディアンジュエリー制作の道に入ったのでしょうか?
ダンジャクソン:
すべて、父のJohn Nez Begayから習い、始めた。父は106歳まで生きたんだ!故トーマスカーティスやウィルソンジムも彼からジュエリーの基本を教わったんだよ。
――お父様は106歳まで!というと何年生まれでしょう?
ダンジャクソン:
たしか一番下の娘が35歳の時に亡くなったから・・(電卓を手にして計算するダン氏)・・・・1877年!!
その頃は、道具も市販のシルバープレートも何にもなかったから、スクラップシルバーや銀貨を溶かして作る、今でいう本当のオールドスタイル。 そこから学んだんだ。
――ダンも最初からラグパターンの今のスタイルだったのでしょうか?
ダンジャクソン:
いや、最初はシャドーボックスやカウボーイスタイルの、エングレービングっていう表面を削ってデザインを描くジュエリーを作っていた。 今のラグパターンでエングレービングしている技術はそこから来てるんだ。
――では、いつからラグパターンのスタイルを始められたのでしょう?
ダンジャクソン:
父が亡くなる前。母はナバホラグのウィーバー(織物職人)だった。そこから、父がラグパターンを作るようになった。父が亡くなる前に、自分にそのスタイルを継いでほしいと言われたんだ。

ナバホラグ

ナバホラグの織機(ミニチュア)
ダンジャクソン:
実は ラグパターンって簡単なようですべて自然が由来の深い意味があって、ここのラインははみ出てはいけない、とか、この形はこうでなければいけない、っていう決まりがある。母にそれを教わり、父にそれをシルバーに描く技術を教わった。
――そうだったんですね!素敵なご両親ですね。
ダンジャクソン:
私の両親は本当にすごい人たちだった。父はモカシンを作る人でもあって、とても伝統的な暮らしをして、母はラグを織って、ものが必要だったらそのラグをトレーディングポストにもっていって食料とトレードしたし、羊を飼ってトウモロコシを育てていたから食べるものはあった。
――ザ・ナバホの生活ですね。他にお父様の教えで引き継いでいることはありますか?
ダンジャクソン:
父がジュエリーに関していつも言っていたことが二つある。 「Never Go Light」軽いほうに逃げるな。と、「Never make too much」多く作りすぎてはいけない。ということ。

Never Go Light, Never make too much.

ダンジャクソン:
軽いほうに逃げるな、というのは銀(シルバー)を銅にしたり、ゲージを下げて薄くするということ。私は一番最初にジュエリーを作り始めたときから、シルバーとゴールド以外触ったことがない。ニッケルや銅では絶対に仕事をしない。そしてシルバーの値段が上がっても下がっても、同じ厚みで作り続けている。それは父の教えがあるからで、だからこそ長年使い続けることができる作品になると自分も信じている。薄いシルバーで価値の低いものを作るのではなく、厚みを確保して家宝になるジュエリーを作る。
――なるほど。深いですね。
ダンジャクソン:
「多く作りすぎてはいけない」と言うのは、ジュエリーを作ってお金に換えるというのはあくまでも家族を養うための手段だということを忘れてはいけないという意味。多く作りすぎて、必要以上に多くのお金を手にする必要はない。私は毎年、インディアンマーケットに行くときは自分でたくさんの在庫を作って持っていこうと思うのだけど、どういうわけか、自分では例年19個以上作れないんだ。これは父がどこかで操作しているに違いない(笑) なんて冗談だけど、「作りすぎると自分に返ってくるから気をつけろ。」とよく言われたんだ。

インディアンマーケット
――作りすぎて自分を安売りするな、という意味もあるのでしょうか。
ダンジャクソン:
そうかもしれない、当時は今みたいに作家の名前とかが重要視される時代じゃなかったけど、「自分に必要な分を必要なだけ作る」っていうことだと思う。
――余計な欲を出してはいけない、ということですね。
ダンジャクソン:
そうだね、それはナバホ族の伝統的な信仰でもある。お金を持つことは目的じゃなくて、本来はお金はただ家族を養うための手段であるべきなんだ。なかなかそれができないけどね。

偉大な父と継承のこと

――素晴らしいお話を聞けました。お父様は、トーマスカーティスやウィルソンジムにもシルバースミスの道へのきっかけを作った人なんですよね?
ダンジャクソン:
そう、アリゾナ州のDelconにいた唯一の腕のいいシルバースミスは僕の父だったからね。彼しかいなかったっていうのもある。彼らはその後独自のスタイルを作り上げているから、僕の「父に習った」っていうとどういう反応をするかは分からないけど、彼らはみんな僕の家族だし、少なくとも彼からの影響は受けている。
――つまり、エディソンスミスやジェニファーカーティス等現代の人気作家もすべてそこからスタートしているんですね。

故トーマスカーティスの娘、ジェニファーカーティスの作品

エディソンスミスの作品。エディソン・ウィルソンジム・ロンベドニーは親戚関係にある

エディソンスミス(左)とロンベドニー(右)
――ダンは自身のジュエリーの継承についてはどう考えていらっしゃるのでしょうか?
ダンジャクソン:
娘二人はチャレンジしたことが何回かあるけど、根気がないからね。
シルバープレートに、ラグデザインを方眼を埋めるようにスケッチしたもの。これがリングになる。
――確かに、これほどの技術を習得するまでには、根気がいりますよね・・・。でもぜひぜひ誰かに継いでもらいたいです!!
ダンジャクソン:
僕はもともと父のラグデザインを継承したいから、このラグデザインにコピーライトをつけたんだ。甥っ子のトミージャクソンも本当はまねできない。でも時々してるけど(笑) それは家族を守るという意味でそうしたんだよ。僕のマネをしているジュエリーを見かけることがあるけど、ラグデザインの本当の意味を分かっていなくて、変なデザインになっているのを何回か見たことがあるよ。

ラグデザインに影響を受けた、甥のトミージャクソンの作品
――今回は、ラグデザインに纏わるとても深い話をありがとうございました。次回は、Delconにお邪魔して、今も伝統的衣装を作っておられる奥様も交えて、レポートさせていただきたいです。
ダンジャクソン:
うん、雪が解けたらね(笑)
インディアンジュエリーのアーティストが「ブランド化」していく中で、「自分の必要な分を必要なだけ作る」ということを続けていくのは難しい時代に来ています。そんな中でも続けられている、真髄を聞くことができた貴重なインタビューでした。



ダンジャクソンとラグデザインのシルバープレート
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ダンジャクソンの作品